『宮本武蔵〜双剣に馳せる夢〜』鑑賞記

押井守脚本で話題の『宮本武蔵双剣に馳せる夢〜』は、一言で言うと変な映画です。


内容としては、宮本武蔵という人物の虚構を廃した実像に迫っていくという趣旨。映画自体は、宮本武蔵研究家を名乗る3Dで描かれた犬飼喜一(仮)なる人物のナレーションをベースに、3Dアニメ、2Dアニメ、実写を織り交ぜながら進んでいきます。


例えば、宮本武蔵といえば、巌流島での佐々木小次郎との戦いが有名ですが、武蔵自身は、この戦いのことを自らくちにすることはあまりなく、吉岡一門との戦いとのことを晩年まで繰り返し語っていました。それは何故か。


また、二刀流という武術は、彼のある捨て切れなかった思いが結果として編み出したものである。その思いとは何か。


その当たりの主題を提示してくれるのでみやすくはなっているのですが、
さて、まずこの映画、どういう風に見るか、自分の中に「見方」を定めるところから始めなければなりません。なぜなら、こういう映画、他にあまりないからです。ドキュメンタリーっぽいつくりになってはいますが、武蔵を追ってるわけではなく、あくまでナレーションが主体の、「ウンチク映画」これに尽きます。


要は、宮本武蔵という歴史上の人物のこういう新解釈ありますよ〜って映画です。何年か前に、いとうせいこう氏がレキシというユニットで「鎌倉幕府の成立は1190年という説もありますよ」ということを歌った『歴史ブランニューデイ』という曲がありますが、それに似てるなと思いました。


確かに、何かを述べる時、その方法というのは非常に大事です。
普通に新説を語られても、「ふーん」で終わってしまうところを、映画や音楽で表現するということは、有効でしょう。


この作品も、ともすれば、居酒屋でのウンチク話で片付けられてしまいそうなところを、あるレヴェルのエンターテイメントまで持ち上げてきています。正直自分は、途中少し退屈したものの、総じて楽しめました。尺が1時間10分と短かったせいもあるけど。


とはいえ、相当の武蔵好き、知識欲の強い方でない限り、なかなか骨の折れる映画な気がします。あと、押井好き。いや、自分も相当な押井好きですが、やや難ありでした。


作品としては、『ミニパト』や『立喰師列伝』と同じ作りです。
今回身にしみたことは、作品を入れる器がいかに大事かということです。
たとえば、この一連の作品『押井節』は大変面白いもののアクが強すぎる。
立喰師列伝』は、かなりの地雷でした。『押井節』大好きな自分でも、延々何十分も一本調子にあれをやられると、さすがにきついと。しかも、立喰師という存在自体が架空の代物なので、話はさらにややこしくなる始末。


しかし、逆に『ミニパト』は、『機動警察パトレイバー』という既に世に浸透している作品を器にして『押井節』を流し込んでいるため、アクの強さががいい具合に中和出来て、名作に仕上がってます。


今回の『宮本武蔵双剣に馳せる夢〜』は、冒頭に記述したように、西久保瑞穂監督が、あの手この手と映像的演出を凝らしているため、やはりこのアクをかなり取り除けているのではないでしょうか。グッジョブです。


ただ、あくまでウンチク映画なので、見終わった後、あんま何も残らなかったですね。ここから何か教訓めいたものは引き出せませんでした。あくまで、ひとつの説を提示されてるだけですからね、なるほどとは思えど、その内容に心動かされるところはあまりなく、むしろそれを伝える方法論としての映画について考えさせられる・・・やっぱり変な映画だなあ。これ褒め言葉です